【ポスト前チェックリスト】企業SNSの画像・動画投稿、潜むリスクと対策
はじめに:視覚情報がもたらすリスク増大
企業公式SNSアカウントの運用において、画像や動画はユーザーのエンゲージメントを高める強力なツールです。テキスト情報に比べ、視覚情報は瞬時に多くの情報を伝え、感情に訴えかける効果があります。しかし、その一方で、画像や動画にはテキストだけでは発生しにくい特有のリスクが潜んでおり、炎上につながるケースも少なくありません。
背景に意図しない情報が写り込んでいたり、使用している素材の権利関係に問題があったり、あるいは映像や音声が特定の層を不快にさせる可能性があったりと、リスクの要因は多岐にわたります。これらのリスクを見落としたまま投稿してしまうことは、企業のブランドイメージを大きく損なう可能性をはらんでいます。
本稿では、企業SNS担当者の皆様が画像や動画を投稿する前に必ず確認すべき炎上リスクとその対策について、具体的なチェック項目を交えながら解説します。視覚情報を安全かつ効果的に活用し、信頼性の高い情報発信を継続するための一助となれば幸いです。
画像・動画投稿に潜む主な炎上リスク
企業SNSにおける画像や動画の投稿には、以下のような様々なリスクが考えられます。
- 著作権・肖像権の侵害:
- 許可なく他社の商品ロゴやキャラクターを写り込ませる
- フリー素材サイトでダウンロードした素材の利用規約を守らずに使用する(商用利用不可、クレジット表記必要など)
- BGMとして著作権保護された楽曲を無許可で使用する
- 個人が特定できる人物の顔や姿を、本人の同意なく掲載する
- イベント等で不特定多数が映り込んでいる映像を、配慮なく公開する
- 意図しない情報漏洩:
- 背景に映り込んだホワイトボードやモニター画面に機密情報や個人情報が含まれている
- デスク周りに映り込んだ書類やPC画面から社内情報が読み取れる
- 動画内の音声に、関係者の私語や無関係な情報が入っている
- 画像や動画のメタデータに位置情報などのプライベートな情報が含まれている
- 不適切な表現・誤解を招く内容:
- 特定の立場や意見を持つ人々を不快にさせる可能性のある映像や表現
- 過度に刺激的、暴力的、性的な内容
- 差別的、偏見を助長するような表現
- 文脈を無視した、あるいは事実と異なる内容を示唆する映像
- AIによって生成された偽情報(ディープフェイクなど)を意図せず、あるいは意図して使用してしまう
- プライバシー侵害:
- 関係者以外の個人の自宅やプライベート空間が映り込んでいる
- 店舗やオフィス内の客や従業員を無許可で撮影・公開する
- ステレオタイプ助長や多様性への配慮不足:
- 特定の性別、年齢、職業などの人々に対して、固定観念に基づいた表現を使用する
- 多様なバックグラウンドを持つ人々への配慮が欠けている
事例から学ぶリスクと教訓
過去には、画像や動画が原因で多くの企業が炎上を経験しています。具体的な事例としては、以下のようなケースが挙げられます。
- 背景の写り込みによる情報漏洩: 社員がオフィスで撮影した写真の背景に、顧客リストの一部が映り込んでおり問題となった事例。教訓として、撮影時には背景に映り込むもの全てを確認すること、機密情報や個人情報が写り込まない場所で撮影すること、またはモザイク処理などの対策を徹底する必要性が示されました。
- 不適切なBGMによる炎上: 動画に使用したBGMが、過去に不祥事を起こした人物に関連する楽曲であったため、批判が殺到した事例。使用する素材の選定においては、楽曲そのもののイメージだけでなく、それに関連する情報まで十分に調査することの重要性が認識されました。
- フリー素材の利用規約違反: フリー素材サイトでダウンロードしたイラストや写真を、規約で禁止されている商用利用に使用したり、クレジット表記を怠ったりして著作権侵害を指摘された事例。素材の利用規約を細部まで確認し、適切に使用すること、可能であれば正規のライセンスを取得した有料素材を利用することもリスク低減につながります。
これらの事例から、画像や動画のチェックは、単に「見た目の良さ」だけでなく、「そこに何が映っているか」「どのように使われているか」「誰が関係しているか」といった多角的な視点が必要であることがわかります。
ポスト前チェックリスト:画像・動画投稿編
企業SNS担当者が画像・動画を投稿する前に確認すべき具体的なチェック項目を以下に示します。
1. コンテンツ内容のチェック
- [ ] 投稿の目的に合致した内容であるか
- [ ] 誤解を招く表現や映像は含まれていないか
- [ ] 特定の個人や集団を不快にさせる可能性はないか(差別、偏見、攻撃的表現など)
- [ ] 過度に刺激的、暴力的、性的な内容は含まれていないか
- [ ] 公序良俗に反する内容ではないか
- [ ] AI生成コンテンツの場合、その旨を明記する必要はないか(ガイドラインによる)
- [ ] (AI生成の場合)不自然な箇所や、意図しない情報が生成されていないか
2. 背景・写り込みのチェック
- [ ] 背景に機密情報や個人情報(書類、PC画面、モニター、ホワイトボードなど)が映り込んでいないか
- [ ] 関係者以外の個人の顔や姿がはっきり映り込んでいないか(映っている場合は本人の許諾を得ているか、モザイク処理が必要か)
- [ ] 他社の商標、ロゴ、商品などが意図せず(あるいは意図して)写り込んでいないか(必要に応じて許諾を得ているか、ボカシ処理が必要か)
- [ ] 社内の特定の場所や備品が映り込むことで、セキュリティ上の問題や誤解を生む可能性はないか
3. 音声・BGMのチェック(動画の場合)
- [ ] BGMに使用している楽曲は、著作権処理が適切に行われているか(自社制作、商用利用可能なライセンス取得済み、フリー音源の規約遵守など)
- [ ] 音声や会話に、意図しない情報や不適切な内容が含まれていないか
- [ ] 環境音に、不快な音や個人情報が含まれていないか
4. 権利関係のチェック
- [ ] 使用している画像や動画素材は、自社で撮影・制作したものか
- [ ] 外部から提供された素材の場合、利用許諾は得られているか、利用規約は遵守しているか
- [ ] 写真や動画に映っている人物全員から肖像権の利用許諾を得ているか(特に個人が特定できる場合)
- [ ] 撮影場所に関する許可が必要な場合、適切に取得しているか
- [ ] 被写体となっている商品やサービスに、第三者の権利(商標権、意匠権など)を侵害するものはないか
5. 技術的・形式的チェック
- [ ] 投稿プラットフォームの推奨する画像サイズや動画フォーマット、容量制限を満たしているか
- [ ] 画質、音質は十分か
- [ ] ファイルのメタデータに不要な情報が含まれていないか
6. 複数人によるチェック体制
- [ ] 一人の担当者だけでなく、必ず複数人の目でチェックを行っているか(特に炎上リスクの高い内容の場合)
- [ ] 広報部門、法務部門など、関係部署によるチェックが必要か
リスク低減のための対策
チェックリストの実施に加え、組織として以下の対策を講じることも重要です。
- SNS運用ガイドラインの策定: 画像・動画投稿に関する明確なルール(使用可能な素材の種類、撮影時の注意点、著作権・肖像権に関する方針など)を定めたガイドラインを作成し、運用に関わる全員が共有します。
- 担当者の教育・研修: SNS担当者だけでなく、投稿に関わる可能性のある社員に対し、著作権や肖像権、プライバシー侵害に関する基本的な知識、過去の炎上事例とその原因などについて継続的な研修を実施します。
- 承認フローの厳格化: 特にリスクの高い投稿(センシティブな内容を含むもの、外部の人物が登場するものなど)については、担当者レベルだけでなく、チームリーダーや責任者、場合によっては広報部門や法務部門の承認を必須とするフローを構築します。
- 使用素材の管理体制構築: 使用する画像や動画素材の出典、利用規約、許諾状況などを一元管理する仕組みを導入します。有料素材や契約が必要な素材については、契約内容を明確にし、更新漏れがないように管理します。
- リスク検知ツールの検討: 投稿前のリスクを自動で検知するツールの導入も選択肢の一つです。AIなどが画像内の不適切な要素や、過去の炎上事例との類似性を検出することで、ヒューマンエラーを防ぐ助けとなります。
まとめ:継続的な意識向上と体制構築を
企業SNSにおける画像・動画投稿は、効果的な情報伝達手段であると同時に、多くの炎上リスクを内包しています。これらのリスクを回避し、安全な情報発信を継続するためには、単にチェックリストを確認するだけでなく、組織全体での継続的な意識向上と強固なチェック体制の構築が不可欠です。
本稿で提示したチェックリストや対策は、リスク管理の出発点となります。自社の運用体制や事業内容に合わせてこれらの項目を見直し、より実効性のあるものとして運用してください。画像や動画を適切に活用し、企業の信頼性とブランドイメージを守りながら、積極的なコミュニケーションを展開していくことを目指しましょう。