【ポスト前チェックリスト】企業SNS 社内キーパーソンの登場が招く炎上リスクと対策
はじめに
企業公式SNSアカウントにおいて、経営層や特定のプロジェクトを牽引する担当者、研究者など、社内外で「キーパーソン」と認識されている人物が登場する投稿は、読者に親近感を与えたり、情報への信頼性を高めたりする上で非常に効果的です。しかしながら、こうしたキーパーソンの登場は、これまで想定していなかった新たな炎上リスクを招く可能性もはらんでいます。
本稿では、企業SNS投稿に社内キーパーソンが登場する際に発生しうる炎上リスクの種類を整理し、それらを回避するための具体的なポスト前チェック項目、およびリスク発生時の対策について詳しく解説いたします。これにより、読者の皆様（企業の広報・PR担当者）が、社内キーパーソンを効果的に活用しつつ、炎上リスクを最小限に抑えた安全な投稿体制を構築するための一助となれば幸いです。
社内キーパーソンの登場に伴う主な炎上リスク
社内キーパーソンが企業SNSに登場する際に考慮すべき炎上リスクは多岐にわたります。代表的なリスクを以下に挙げます。
- 個人的な過去の言動や情報によるリスク: キーパーソン個人の過去のSNS投稿、発言、あるいはメディア露出などにおける不適切な内容や、現在の企業のスタンスと相容れない思想・信条が掘り起こされ、批判の対象となるリスクです。いわゆる「デジタルタトゥー」として顕在化することがあります。
- 発言内容の不適切さ・配慮不足: 投稿内でのキーパーソンの発言が、特定の層に対する差別や偏見、あるいは社会的に問題視されている事柄に関する不用意な言及を含む場合、炎上につながります。また、専門外の領域に関する不正確な発言や、自社の都合のみを優先したように受け取られる発言もリスクとなります。
- 企業としての公式見解との乖離: キーパーソンの個人的な見解や意見が、企業が公式に発表しているスタンスや理念と異なったり、あるいは誤解を招く形で伝えられたりすることで、企業の信頼性が損なわれるリスクです。
- 情報漏洩リスク: 投稿する画像や動画の背景に機密情報や個人情報が映り込んでしまったり、キーパーソンの発言の中に未公開情報や社外秘の内容が含まれてしまったりするリスクです。
- キーパーソン個人への攻撃と企業への波及: キーパーソンの容姿や経歴、プライベートな事柄に対する誹謗中傷が発生し、それが企業への批判へとエスカレートしていくリスクです。
これらのリスクは、キーパーソンの影響力が大きいほど、また企業の認知度が高いほど、炎上規模が拡大しやすい傾向にあります。
炎上を防ぐためのポスト前チェック項目
社内キーパーソンが登場する投稿を行う前に、以下のチェック項目を体系的に確認することが重要です。
1. キーパーソン本人との連携・確認
- 過去の公の発言・活動履歴の確認: キーパーソン本人の過去のSNSアカウント（公開範囲に関わらず）、ブログ、メディア露出、講演内容などを事前に可能な限り確認し、潜在的な炎上リスクがないかチェックしましたか。
- 発言内容のすり合わせと承認: 投稿でキーパーソンが発言する内容について、事前に本人と綿密にすり合わせを行い、企業としての公式メッセージと乖離がないことを確認し、本人の承認を得ましたか。
- 個人の思想・信条と企業理念の整合性: キーパーソンが公にしている思想・信条が、企業の理念や社会的なスタンスと大きく乖離していないことを確認しましたか。
2. 投稿コンテンツ内容の確認
- 発言の正確性と適切性: キーパーソンの発言内容に不正確な情報や、特定の層への配慮を欠く表現、差別的な意味合いを含む言葉がないか、複数人でチェックしましたか。
- 誤解を招く表現の排除: 専門用語の多用や、文脈によって解釈が変わる可能性のある表現がないか確認し、誰にでも分かりやすく、誤解の余地がない表現に修正しましたか。
- ビジュアル要素の確認: 画像や動画に、機密情報、個人情報、肖像権・著作権に関わるもの、あるいは不快感を与える可能性のある背景やオブジェクトが映り込んでいないか、詳細にチェックしましたか。
- 企業メッセージとの整合性: 投稿全体として、企業のブランドイメージや、その時に発信すべき主要なメッセージと整合性が取れていることを確認しましたか。
3. 社内承認フローと体制
- 明確な承認フローの実行: 広報・PR部門だけでなく、キーパーソン本人、関連部署（法務、事業部など）、必要に応じて経営層を含む関係者からの承認を正式に経るフローを構築・実行しましたか。
- リスク評価会議の実施: 高いリスクが想定される投稿については、関係者間でリスク評価会議を実施し、潜在的な問題点とその対策について議論しましたか。
- 緊急時の対応体制の共有: 万が一炎上した場合の連絡体制、初動対応（投稿削除、訂正文掲載など）の責任者と手順を関係者間で事前に共有しましたか。
4. リスク発生時の対応計画
- リスクシナリオの想定: 投稿によって起こりうる最悪のシナリオ（例：キーパーソンの過去の発言が掘り起こされる、発言が炎上する、個人攻撃が発生するなど）を複数想定しましたか。
- 対応マニュアルの準備: 各シナリオに対する初動対応、鎮静化に向けたステップ、社内外への情報公開方針などを定めたマニュアルを準備し、関係者がアクセスできるようにしましたか。
- コメント監視体制: 投稿後のコメント欄を継続的に監視し、問題のあるコメント（誹謗中傷、誤情報など）に迅速に対応できる体制を整えましたか。
具体的な対策と留意点
上記のチェック項目に加え、以下のような対策を講じることで、リスクをさらに低減できます。
- キーパーソンへのSNSリスク研修: 定期的に、あるいは投稿に関わる前に、SNS炎上リスクや情報発信の注意点に関する研修をキーパーソン本人に実施することを検討してください。
- 発言ガイドラインの策定: キーパーソンがSNSやメディア等で発言する際のガイドライン（避けるべきトピック、表現のルールなど）を策定し、共有することが有効です。
- ライブ配信などの事前リハーサル: ライブ配信や動画収録では、特に綿密な打ち合わせとリハーサルを行い、発言内容やカメラ映りを事前に確認することが重要です。
- 否定的な意見への建設的な対応: 投稿に対して否定的な意見が出た場合でも、誹謗中傷でない限りは真摯に耳を傾け、建設的な対話を試みる姿勢を示すことが、事態の鎮静化につながる場合があります。
まとめ
企業公式SNSに社内キーパーソンが登場する投稿は、企業と顧客との関係性を強化し、メッセージに深みを与える大きな可能性を秘めています。しかし、その効果を最大限に引き出しつつ、潜在的な炎上リスクからブランドイメージを守るためには、事前の入念なチェックと、関わる全ての関係者間での密な連携、そして体系的なリスク管理体制の構築が不可欠です。
本稿でご紹介したチェック項目や対策が、皆様の企業における安全で効果的なSNS運用の一助となれば幸いです。常に最新のSNSトレンドや社会情勢に注意を払い、柔軟にリスク対策を更新していくことが、企業SNS運用の成功につながります。