【ポスト前チェックリスト】企業SNS 商品・サービス訴求表現の法的リスク(景表法・薬機法等)とチェックポイント
企業公式SNSアカウントは、商品やサービスの魅力を伝え、購買意欲を高めるための重要なツールです。しかし、その訴求表現には、法律によって厳格なルールが定められています。これらの法規制への理解が不足していると、意図せず違反してしまい、行政指導や罰則の対象となるだけでなく、企業への信頼失墜や炎上といった深刻な事態を招くリスクがあります。
本稿では、企業SNSにおける商品・サービス訴求に関連する主な法的リスク、特に景品表示法(景表法)や薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律)を中心に、安全な表現のための具体的なチェックポイントを解説します。SNS担当者の皆様が、法律を遵守しつつ効果的な情報発信を行うための一助となれば幸いです。
企業SNSにおける商品・サービス訴求と法規制
企業が消費者に対して行う商品やサービスに関する情報提供、特に広告的な表現は、様々な法律によって規制されています。SNS投稿も例外ではなく、これらの法規制の対象となります。主な関連法規には、以下のようなものがあります。
- 景品表示法(不当景品類及び不当表示防止法): 消費者が商品やサービスをより良く、あるいはより安く誤認することを防ぎ、自主的かつ合理的な選択ができるようにすることを目的とした法律です。商品・サービスの品質や価格に関する「不当表示」や、過大な「景品類」の提供が規制されています。
- 薬機法(医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律): 医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器、再生医療等製品に関する広告や表示について規制を定めています。虚偽・誇大な広告等による一般消費者の誤解や不利益を防ぐことを目的としています。
- 健康増進法: 食品や栄養に関する表示について、虚偽・誇大なものを規制しています。特に、病気の治療や予防、体の機能改善など、医薬品と紛らわしい表示が規制の対象となります。
- 不正競争防止法: 競争業者間での不当な競争行為を防止するための法律です。商品・サービスの原産地、品質、内容等について誤認させるような表示や、競争相手の商品等と混同させるような表示などが規制されています。
- 特定商取引法: 特定の取引形態(通信販売、訪問販売など)における表示義務や禁止行為を定めています。通信販売に該当する場合、事業者の氏名・名称、住所、電話番号、価格、送料などの表示が必要です。
これらの法律に違反する表現を行った場合、消費者庁や厚生労働省、都道府県などから指導や命令、課徴金納付命令といった行政処分を受ける可能性があります。また、企業イメージが著しく損なわれ、ブランド価値の低下や、消費者からの不信感、そして炎上につながるリスクは非常に高まります。
景品表示法におけるリスクとチェックポイント
景品表示法は、企業SNS投稿において最も注意すべき法律の一つです。特に「不当な表示」に関する規制は多岐にわたります。
優良誤認表示
商品・サービスの品質、規格その他の内容について、実際のものよりも著しく優良であると示したり、事実に相違して競争関係にある事業者に係るものよりも著しく優良であると示す表示です。
チェックポイント:
- 客観的な根拠の確認: 表示内容(「業界No.1」「最高の品質」「〇〇が△△%改善」など)について、消費者庁が定める「表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料」を提出できるか確認してください。根拠がない、あるいは不十分な場合、優良誤認表示とみなされるリスクがあります。
- 比較表現の妥当性: 他社製品やサービスと比較する表示を行う場合、比較対象、比較方法、比較結果が客観的かつ正確であるかを確認してください。あいまいな比較や根拠のない比較は不当表示となります。
- 限定的な効果の過大表現: 特定条件下での効果や、限定的なモニター調査結果などを、あたかも全ての人に当てはまるかのように表現していないか確認してください。
- 使用前・使用後の比較写真・動画: 使用前・使用後の比較を行う場合、比較条件が同等であるか、加工や演出によって実際よりも効果が高く見えるようになっていないか、また、効果には個人差がある旨を明確に表示しているか確認してください。
有利誤認表示
価格その他の取引条件について、実際のもの又は当該事業者と競争関係にある事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示です。
チェックポイント:
- 二重価格表示: 通常価格よりも安い価格を表示する場合、通常価格の根拠(いつからいつまでその価格で販売されていたか、比較対照価格として妥当かなど)を明確にしてください。架空の通常価格や、ごく短期間しか販売されていない価格との比較は不当表示となります。
- 限定条件の明確化: 「今だけ」「期間限定」「数量限定」といった限定表示を行う場合、その限定条件(期間、数量など)を明確に表示してください。条件を満たしていないのに限定表示を続けることは不当表示となります。
- 割引・特典表示の妥当性: 「〇〇%オフ」「XX円引き」「特別価格」といった表示を行う場合、計算根拠や対象商品を明確にしてください。全ての対象商品が割引になっているわけではないのに全体を対象とするかのような表示は誤解を招きます。
- おとり広告: 実際には購入できない、あるいは非常に少ない数量しか用意していない商品やサービスを、集客のためにあたかも手軽に購入できるかのように表示することは、おとり広告として不当表示となります。
ステルスマーケティング(ステマ)規制
景品表示法における指定告示として、広告であるにもかかわらず、それが広告であると消費者に分からないように表示する行為(いわゆるステルスマーケティング)が規制されています。
チェックポイント:
- 広告であることの明確化: 企業自身が費用を負担して行うSNS投稿や、インフルエンサー等に依頼して行う投稿など、広告・宣伝を目的とする投稿には、「広告」「プロモーション」「PR」といった文言を投稿内(テキスト、画像、動画など)に明確に表示してください。ハッシュタグによる表示の場合、他のハッシュタグに埋もれず、容易に認識できる場所に配置してください。
- インフルエンサー等への明確な指示: インフルエンサーやアフィリエイター等に投稿を依頼する場合、広告表示義務があることを明確に伝え、表示が適切に行われているか確認する体制を構築してください。
薬機法におけるリスクとチェックポイント
医薬品、医療機器、化粧品、健康食品などを扱う企業は、薬機法に基づく広告規制に特に注意が必要です。
虚偽・誇大な広告
商品等の名称、製造方法、効能効果、性能、安全性の保証などについて、虚偽・誇大な表現を行うことは禁止されています。特に医薬品的な効能効果の標榜や、安全であることの保証などは厳しく規制されています。
チェックポイント:
- 効能効果の範囲の確認: 化粧品であれば「化粧品の効能の範囲」に定められた56項目の範囲内の表現であるか確認してください。「シワが完全に消える」「病気が治る」など、化粧品の範囲を超える医薬品的な効能効果を標榜していないか注意が必要です。健康食品等についても、医薬品的な効能効果を連想させるような表現は薬機法違反となる可能性があります。
- 承認・認証範囲内の表現: 医薬品や医療機器は、製造販売承認・認証を受けた範囲内の効能効果、性能、用法用量、安全性に関する表現のみが許容されます。承認・認証されていない効能効果等を標榜することはできません。
- 安全性の保証禁止: 「副作用なし」「完全に安全」など、安全性を保証するような表現は禁止されています。
- 体験談の取り扱い: 個人の体験談は、それが特定の効能効果を保証するかのように誤認させる場合、虚偽・誇大広告とみなされるリスクがあります。個人的な感想であることを明記し、効果には個人差がある旨を併記するなど、慎重な配慮が必要です。
- ビフォーアフター写真・動画: 医療機器や医薬品等に関するビフォーアフター写真・動画は、効果を保証する表現とみなされやすく、規制の対象となりやすい表現です。特に治療効果等を示すビフォーアフターは原則禁止されています。
安全な投稿のための体制構築
法規制に関連する炎上リスクを回避し、安全な投稿を行うためには、個々の投稿チェックだけでなく、組織としての体制構築が不可欠です。
- 複数チェック体制の構築: 投稿内容のファクトチェックだけでなく、法務部門や関連部署(品質保証部門、薬事部門など)による表現チェックを行うプロセスを導入してください。SNS担当者だけでなく、専門知識を持つ担当者による複数チェックが有効です。
- 社内ガイドラインの策定・周知: 企業SNS運用ガイドラインの中に、法規制遵守に関する具体的な項目や注意点を盛り込み、運用に関わる全ての担当者に周知徹底してください。
- 最新情報の継続的な学習: 法規制は改正されることがあります。関連省庁(消費者庁、厚生労働省など)のウェブサイトを確認するなど、常に最新の情報をキャッチアップし、社内ガイドラインやチェック項目に反映させてください。
- 疑わしい表現は避ける勇気: 表現が法規制に抵触するか判断に迷う場合は、リスクを回避するためにその表現を使用しない、あるいは専門家(弁護士など)に相談することを検討してください。
まとめ
企業SNSでの商品・サービス訴求は、ブランドの成長に貢献する一方で、景品表示法や薬機法をはじめとする様々な法規制を遵守する必要があります。不適切な表現は、単なる法律違反に留まらず、企業の信用を失墜させ、大規模な炎上を引き起こす可能性があります。
常に最新の法規制に関する情報を把握し、社内での複数チェック体制やガイドライン整備を通じて、法的に問題のない、消費者に信頼される情報発信を心がけることが、炎上リスクを低減し、企業の持続的なブランド価値向上につながります。SNS担当者の皆様には、日々の投稿業務において、これらの法的リスクへの意識を高く持ち、安全な表現を選択する重要性を改めて認識していただければ幸いです。