【ポスト前チェックリスト】企業SNS投稿の落とし穴:著作権、景表法など法的リスク対策
はじめに
企業のSNSアカウントは、消費者やステークホルダーとの重要なコミュニケーションチャネルです。手軽に情報を発信し、多くの人々にリーチできる反面、意図しない投稿が法的な問題を引き起こし、結果として炎上リスクに繋がるケースが後を絶ちません。著作権侵害、景品表示法違反、プライバシー侵害など、SNS投稿には様々な法的リスクが潜んでいます。
本記事では、企業SNSの運用を担当する広報・PR担当者の皆様が、日々の投稿において特に注意すべき法的リスクの種類と、その具体的な対策について解説します。この記事をお読みいただくことで、法的な観点からの炎上リスクを理解し、安全で信頼性の高いSNS運用体制を構築するための実践的なヒントを得ていただければ幸いです。
SNS投稿に潜む主な法的リスク
企業SNSの投稿においては、主に以下のような法的リスクに注意が必要です。これらのリスクは単なる「間違い」ではなく、法的な責任追及や企業イメージの失墜、そして炎上といった深刻な結果を招く可能性があります。
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著作権・商標権侵害
- 内容: 他者が権利を持つテキスト、画像、動画、音楽、キャラクターなどを権利者の許諾なく無断で使用する行為です。インターネット上の画像を安易に使用したり、他社の商品名やロゴを不適切に使用したりすることが該当します。フリー素材や購入素材であっても、利用規約の範囲を超える使用は権利侵害にあたる可能性があります。
- リスク: 著作権者や商標権者からの差止請求、損害賠償請求といった法的な問題に加え、無断使用が発覚した際には企業としてコンプライアンス意識を問われ、信用毀損や炎上といった事態に発展する可能性があります。
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景品表示法違反(不当表示・ステルスマーケティング規制)
- 内容: 商品・サービスの品質や価格等について、実際よりも著しく優良である、あるいは有利であると偽って表示する行為(優良誤認表示、有利誤認表示)です。また、広告であるにも関わらず、それが広告であることを隠す「ステルスマーケティング」(ステマ)も、2023年10月1日から景品表示法違反として規制対象となりました。
- リスク: 行政処分(措置命令、課徴金納付命令)の対象となるだけでなく、消費者からの信用を失い、大きな炎上を引き起こす典型的な事例となります。特にステマ規制に関しては、社会的な関心も高く、違反事例は厳しく追及される傾向にあります。
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薬機法違反
- 内容: 医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器、再生医療等製品について、法律で定められた範囲を超える効能効果を謳ったり、安全性を保証するような表現をしたりする行為です。健康食品についても、医薬品と誤認されるような効能効果を表示すると薬機法に抵触する可能性があります。
- リスク: 行政指導、業務停止命令、課徴金納付命令といった法的な措置に加え、消費者に健康被害をもたらす可能性や、虚偽・誇大な情報として炎上を招きます。特に健康や美容に関する情報は消費者の関心が高く、誤った情報は大きな混乱や不信感を生みます。
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個人情報・プライバシー侵害
- 内容: 本人の許可なく個人情報(氏名、住所、電話番号、メールアドレスなど)を公開したり、個人が特定できるような情報(顔写真、勤務先、家族構成など)を無断で投稿したりする行為です。イベント会場などで撮影した写真に意図せず第三者の顔がはっきりと映り込んでしまうケースなども注意が必要です。
- リスク: 個人情報保護法違反、プライバシー権侵害による損害賠償請求といった法的な問題に加え、個人からの抗議や企業に対する不信感が高まり、炎上といった事態に発展します。
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名誉毀損・侮辱
- 内容: 特定の個人や企業、団体などの社会的評価を下げるような事実を不特定多数が閲覧できるSNS上で摘示する行為(名誉毀損)や、事実の摘示がなくとも特定の個人などを公然と侮辱する行為です。批判や意見表明の意図であっても、表現方法によってはこれらに該当する可能性があります。
- リスク: 法的な責任追及(損害賠償請求、謝罪広告掲載命令など)の対象となり、企業イメージの著しい低下や激しい炎上を招きます。
法的リスクを回避するための具体的な対策とチェックポイント
これらの法的リスクを回避し、安全なSNS運用を行うためには、投稿前のチェック体制構築が不可欠です。以下に、広報・PR担当者の皆様が投稿前に必ず確認すべき具体的なポイントをチェックリスト形式で挙げます。
1. 権利侵害リスク対策チェックリスト
- 使用する全ての素材(テキスト、画像、動画、音楽、キャラクター、ロゴ等)について、権利元と利用規約を確認し、適切な許諾を得ていますか?
- インターネット検索で見つけた画像や他社SNSの投稿内容を無断で使用していませんか。
- フリー素材サイトや購入した素材の利用規約(商用利用の可否、加工の可否、クレジット表示の要不要など)を遵守していますか。
- 第三者が制作したコンテンツ(ユーザー投稿など)を使用する場合、必ず本人から利用許諾を得ていますか。
- 他社の商品名、サービス名、ブランドロゴなどに言及する場合、商標権を侵害しない表現になっていますか。ロゴの使用には通常、権利者の許諾が必要です。
- 他者の著作物を「引用」する場合、著作権法上の引用の要件(主従関係、明瞭区別性、引用の必要性、出所の明示)を全て満たしていますか?
- 自社のオリジナルコンテンツが「主」であり、引用部分が「従」の関係になっていますか。
- 引用部分がカギカッコや引用タグ、インデントなどにより、他の部分と明確に区別されていますか。
- なぜその引用が必要なのか、学術的根拠や報道など引用の必然性がありますか。
- 引用元(著作物名、著者名、URLなど)を明確に表示していますか。
2. 景品表示法・薬機法リスク対策チェックリスト
- 商品・サービスに関する表示内容に、事実と異なる、あるいは誤解を招くような「不当表示」にあたる表現はありませんか?
- 品質や性能について、「業界No.1」「世界初」といった最上級の表現を使用する場合、その根拠となる客観的な調査データや資料があり、いつでも提出できますか。
- 価格やキャンペーン内容について、実際よりも著しく有利であると誤認させるような表現(二重価格表示の不備など)はありませんか。
- 広告・宣伝目的の投稿であるにも関わらず、それが広告であることを隠す「ステルスマーケティング」にあたる表現はありませんか?
- インフルエンサーや第三者に依頼して投稿してもらう場合、投稿に「広告」「PR」「#プロモーション」といった表示を明確に記載していますか。
- 自社アカウントからの投稿であっても、広告と誤認されやすい表現(例えば、社員の個人的な感想のように見せかけるなど)は避けていますか。
- 医薬品、化粧品、健康食品等に関する投稿で、薬機法に違反するような「未承認の効能効果」や「安全性の保証」といった表現を使用していませんか?
- 製品に承認・許可された範囲の効能効果のみを記載していますか。
- 個人の体験談を引用する場合でも、製品の効能効果として受け取られる可能性のある強い表現や断定的な表現は避けていますか。
3. 個人情報・プライバシー侵害リスク対策チェックリスト
- 投稿内容に、特定の個人(社員、顧客、第三者等)が特定できるような情報(顔写真、氏名、連絡先、位置情報、所属等)が含まれていませんか?含まれる場合、必ず本人の許諾を得ていますか?
- イベントや社内行事の写真に第三者が写り込む場合、個人の顔がはっきりと認識できるアップの写真など、プライバシーを侵害する可能性のある写真に注意していますか。集合写真等で不特定多数が写る場合は、事前にその旨を告知するなどの配慮を検討しましたか。
- 社内システム画面や書類など、個人情報が含まれる可能性のあるものが写り込んでいませんか。
- 第三者のプライベートな情報や、関係者以外知り得ない社内情報を含んでいませんか?
- 顧客とのやり取りや、社内の機密情報・非公開情報を不用意に投稿していませんか。
4. 名誉毀損・侮辱リスク対策チェックリスト
- 特定の個人や企業、団体などを誹謗中傷したり、社会的評価を下げる可能性のある表現を使用していませんか?
- 競合他社や特定の個人に対する批判的な内容を投稿する場合、事実に基づかない憶測や根拠のない情報、あるいは攻撃的・侮辱的な言葉遣いは避けていますか。
- 企業としての公式見解として発信する内容が、特定の相手に対する不当な攻撃と受け取られないか、表現方法を含めて慎重に検討しましたか。
社内体制と運用による法的リスク管理
これらの法的リスクは、SNS運用担当者個人の知識や注意だけに依存せず、組織的な体制を構築することによって、より効果的に管理し、炎上リスクを低減できます。
- 法務部門や外部専門家との連携強化: 法的な判断に迷う表現や、利用許諾の要不要など、判断に自信がない場合は、必ず社内の法務部門や顧問弁護士、あるいはSNS法務に詳しい外部専門家などに相談するフローを明確に定めておきましょう。
- 投稿承認フローへの法的リスクチェック項目の組み込み: 投稿承認を行う担当者が、今回ご紹介したような法的リスクに関するチェック項目を確認するプロセスを、承認フローの中に必ず組み込んでください。複数の目でチェックすることで、リスクの見落としを防ぐことができます。
- 担当者への継続的な研修: SNS関連の法規制(景品表示法におけるステマ規制の強化など)は変化しやすく、最新の判例や炎上事例からも学ぶべき点が多くあります。SNS運用担当者だけでなく、投稿内容に関わる可能性のある関連部署(マーケティング、商品開発など)の担当者に対しても、法改正や最新情報に関する定期的な研修を実施し、知識レベルを維持・向上させることが重要です。
- リスク発生時の対応計画策定: 万が一、法的な問題を含む投稿をしてしまった場合の対応計画を事前に定めておきましょう。投稿の削除・訂正方法、謝罪の要否と方法、法務部門や経営層への報告フロー、関係各所への連絡体制などを明確にしておくことで、リスク発生時に迅速かつ適切に対応できます。
結論
企業SNSの運用における法的リスク管理は、単に法律を遵守するという側面だけでなく、企業の社会的信用やブランドイメージを守る上で極めて重要です。著作権侵害、景品表示法違反、薬機法違反、個人情報・プライバシー侵害、名誉毀損といったリスクは、担当者の不注意や知識不足から発生し、瞬く間に企業の信頼性を揺るがす炎上へと繋がる可能性があります。
日々のSNS投稿においては、今回ご紹介した具体的なチェックポイントを念入りに確認する習慣をつけ、少しでも疑問点があれば必ず社内の法務部門や外部の専門家の意見を求めるようにしましょう。また、組織として法務部門との連携強化、投稿承認フローへの法的リスクチェックの組み込み、そして担当者への継続的な教育を徹底することで、より盤石なリスク管理体制を構築できます。
法的リスクを適切に管理し、安全で健全なSNS運用を通じて、企業のブランド価値向上とステークホルダーとの良好な関係構築を実現していただけることを願っています。