【ポスト前チェックリスト】企業SNS 『中の人』発信のリスクと安全なパーソナリティ表現
企業公式SNSアカウントにおいて、人間味や親近感を出すために「中の人」として特定のパーソナリティを付与したり、担当者自身の存在を仄めかしたりする運用手法が増えています。これによりユーザーとの距離が縮まり、エンゲージメントを高める効果が期待できる一方で、企業公式アカウントとしての立場と個人の側面が混ざり合うことで特有の炎上リスクも生じます。
本記事では、企業SNSにおける「中の人」発信に潜むリスクを具体的に解説し、安全にパーソナリティを表現するための対策とポスト前チェック項目をご紹介します。
「中の人」発信に潜む炎上リスク
「中の人」運用は、企業アカウントに血を通わせ、ユーザーとの共感を深める有効な手段となり得ます。しかし、その個性が時に企業全体のイメージと乖離したり、予期せぬ形で批判を招いたりする可能性があります。具体的なリスクは以下の通りです。
- 個人的な意見や価値観と公式見解の混同: 中の人の個人的な考えや趣味、政治・社会問題に対する意見などが投稿内容に滲み出てしまい、それが企業の公式なスタンスであるかのように受け取られるリスクがあります。
- 不適切な言葉遣いや表現: 親近感を出すつもりの軽い言葉遣いや、特定のインターネットミーム、流行語などが、一部のユーザーに不快感を与えたり、企業の品位を損ねたりする可能性があります。
- 匿名性の崩壊と個人への攻撃: 「中の人」のプライベートな情報が特定されたり、アカウント運営者の素性が晒されたりした場合、その個人に対する誹謗中傷や攻撃が発生し、それが企業全体への批判に繋がるリスクがあります。
- 特定の層への偏見や配慮不足: 中の人の個人的な経験や知識に基づいた発信が、意図せず特定のユーザー層（属性、価値観など）に対する偏見や配慮不足と捉えられ、炎上するリスクがあります。
- 過度なキャラクター設定による期待とのギャップ: 作られた「中の人」のキャラクター設定が過度に強調されすぎると、現実の企業活動やサービスとの間にギャップが生じ、ユーザーの失望や不信感を招く可能性があります。
- 従業員の個人的な問題の波及: アカウント担当者の個人的なSNSでの問題行動や不祥事が発覚した場合、企業公式アカウントの信頼性も大きく損なわれる可能性があります。
リスク発生の原因分析
これらのリスクは、主に以下の要因によって引き起こされることが多いです。
- 「中の人」の役割と責任の不明確さ: どこまで個人的な要素を出して良いのか、企業公式として守るべきラインがどこにあるのかが曖昧であること。
- 企業全体のSNSガイドラインの不備: 「中の人」運用に特化したルールや、パーソナリティ表現に関する基準が明確に定められていないこと。
- 投稿前のチェック・承認体制の不足: 中の人の個性が強く出た投稿が、第三者（他のチームメンバーや上長）のチェックを経ずに公開されてしまうこと。
- 「中の人」担当者のSNSリテラシー・危機管理意識の不足: 個人のSNS利用感覚と企業公式アカウント運用との違いを十分に理解していないこと。
- 企業側のリスク評価の甘さ: 「親近感」というメリットを過度に重視し、それに伴う潜在的なリスクを十分に認識・評価していないこと。
安全な「中の人」発信のための対策とチェック項目
「中の人」運用によるリスクを最小限に抑え、安全にパーソナリティを表現するためには、事前の対策と投稿前の厳重なチェックが不可欠です。以下に具体的な対策とポスト前チェック項目を示します。
事前対策
- 「中の人」ペルソナと表現範囲の明確化:
- アカウントの目的、ターゲット層、ブランドイメージに合致する「中の人」のキャラクター設定（年齢層イメージ、口調、興味関心など）を具体的に定めます。
- どこまで個人的な要素を出して良いか（例: 好きな食べ物、週末の過ごし方の一部など）、企業に関するどのような情報まで話して良いか（例: 部署の雰囲気、業務の一部など）といった表現範囲を明確にガイドライン化します。
- 個人の価値観や意見、政治・宗教に関する話題、特定の個人・団体への言及など、避けるべきNGトピックをリストアップします。
- 社内ガイドラインへの反映と担当者研修:
- 策定した「中の人」ペルソナ、表現範囲、NGトピックなどを従業員向けSNSガイドラインに追記します。
- 担当者には、ガイドラインの内容を徹底的に理解させる研修を実施します。特に、個人アカウントと公式アカウントの違い、炎上リスク、情報発信における責任の重さなどを再確認します。
- 匿名性が完全に保証されない可能性や、炎上時の対応フローについても共有し、担当者の危機管理意識を高めます。
- 複数人での運用体制とチェックフローの構築:
- 「中の人」運用は、担当者一人に任せず、複数人が担当する、あるいは最低でも他の担当者や責任者が内容をチェックする体制とします。
- 投稿内容について、定められたペルソナや表現範囲から逸脱していないか、NGトピックに触れていないかなどを確認するチェックリストを作成し、必ず複数人の目で確認する承認フローを設けます。
ポスト前チェック項目
以下の項目について、投稿前に担当者自身およびチェック担当者が必ず確認します。
- □ この投稿は、設定された「中の人」ペルソナ、口調、表現範囲に合致しているか。
- □ 個人的な意見や価値観、趣味嗜好などが、企業の公式見解やブランドイメージと誤解される可能性はないか。
- □ 投稿に含まれる情報に、個人が特定される手掛かり（場所、時間、特定の人物関係など）が含まれていないか。
- □ 軽い言葉遣いや流行語、ミームなどが、ターゲット層以外のユーザーや社会全体にとって不快感や違和感を与える可能性はないか。
- □ 特定の属性（年齢、性別、職業、地域など）に対する偏見や配慮不足に当たる表現はないか。
- □ 企業やサービスに関する情報に不正確な点はないか。（「中の人」としての日常描写でも、企業活動に触れる場合は正確性が重要です。）
- □ 過去の自身の発言や、企業の過去の炎上事例などとの整合性は取れているか。
- □ この投稿が炎上した場合、どのようなリスクが想定されるか、また企業としてどのように対応するかイメージできているか。
- □ ガイドラインで定められたNGトピック（政治、宗教、特定の批判、プライベートな暴露など）に触れていないか。
- □ 第三者（他の運用担当者、上長など）によるチェックと承認は完了しているか。
まとめ
企業SNSにおける「中の人」運用は、ユーザーとの関係構築において大きな可能性を秘めていますが、同時に多くのリスクも伴います。これらのリスクは、「中の人」自身のSNSリテラシーだけでなく、企業側の明確なガイドライン設定、適切な運用体制、そして厳格なチェックフローによって大幅に低減することが可能です。
ご紹介した対策とポスト前チェックリストは、安全な「中の人」運用体制を構築するための一助となるものです。親近感のある発信を心がけつつも、常に企業公式アカウントとしての責任の重さを念頭に置き、一つ一つの投稿に対して慎重な判断を行うことが、ブランドイメージを守り、ユーザーからの信頼を獲得するために不可欠です。社内での情報共有や研修資料として、ぜひご活用ください。