【ポスト前チェックリスト】企業SNS 競合・他ブランド言及のリスクと安全な表現
企業公式SNSアカウントの運用において、自社製品・サービスの優位性を訴求する際に、競合他社や他ブランドに言及せざるを得ない場面が生じることがあります。しかし、このような言及は、表現方法によっては深刻な炎上リスクや法的リスクを伴う可能性があります。意図しない形で他社への攻撃と捉えられたり、不正確な情報によってユーザーを誤認させたりすることは、企業ブランドの信頼性を大きく損なうことにつながります。
本稿では、企業SNS運用における競合・他ブランド言及のリスクを具体的に解説し、これらのリスクを回避しながら安全に情報発信する上でのチェックポイントをご紹介します。広報・PR担当者の皆様が、適切なポスト前チェックを行うための一助となれば幸いです。
企業SNSにおける競合・他ブランド言及の主なリスク
競合他社や他ブランドに言及する投稿には、以下のようなリスクが潜んでいます。
- 誹謗中傷・名誉毀損リスク: 他社を貶めるような表現や、事実に反する内容を投稿した場合、誹謗中傷とみなされ、名誉毀損による訴訟リスクが発生します。これは企業の社会的信用を著しく低下させます。
- 景品表示法違反(不当表示)リスク: 自社製品・サービスが他社製品・サービスよりも優れていると表示する際に、その比較が事実に基づかないものや、比較条件が不明確な場合、「優良誤認表示」として景品表示法に違反する可能性があります。特に根拠のあいまいな「〇〇よりも優れている」「業界No.1」といった表現には注意が必要です。
- 不快感や反発を招くリスク: 競合他社やそのユーザーを揶揄したり、攻撃的なトーンで言及したりする投稿は、多くのユーザーに不快感を与え、批判や反発を招きやすい性質を持っています。特に、他社の製品やサービスに愛着を持つユーザーからの強い反論によって炎上につながることがあります。
- ブランドイメージの低下: 他社への否定的な言及は、たとえ事実に基づいていたとしても、企業としての品位や姿勢を問われる可能性があります。ネガティブな言動が多いアカウントは、ユーザーから「攻撃的」「余裕がない」といった印象を持たれ、ブランドイメージの低下を招くことがあります。
- 意図せず競合の宣伝になるリスク: 他社を批判する目的で言及しても、結果的にその競合の存在や製品を多くのユーザーに認知させることになり、意図せず競合の広告塔になってしまうケースも考えられます。
安全な表現でリスクを回避するためのチェックポイント
これらのリスクを回避し、適切に情報発信を行うためには、以下の点に留意し、投稿前のチェックを徹底することが重要です。
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表現の客観性と正確性の確認: 他社との比較や優位性を示す際は、必ず客観的な事実やデータに基づいているかを確認してください。調査機関のデータ、第三者による評価、公的な情報源など、信頼できる根拠を明確に示せる表現にとどめるべきです。根拠のあいまいな主観的評価や断定的な表現は避けてください。
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ポジティブな自社訴求に注力: 他社に言及するのではなく、自社製品・サービス独自の強みやメリットをポジティブに語ることに注力してください。ユーザーは「何が良いか」という情報に関心があり、「何が悪いか」というネガティブな情報は避けられる傾向にあります。自社のベネフィットを具体的に伝える方が、結果的にユーザーの関心を惹きつけやすくなります。
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比較を行う場合の慎重な表現: どうしても比較を行う必要がある場合は、比較対象や比較方法を明確にし、誤解を与えない表現を心がけてください。「当社のA製品は、B社製の旧モデルと比較して消費電力が約10%削減されています(C社調べ、20XX年データ)」のように、出典や条件を具体的に示すことが望ましいです。特定の競合名を出す場合は、法務部門や広報部門の確認を必須とすべきです。
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揶揄・攻撃的なトーンの排除: 他社やその製品を揶揄したり、嘲笑ったりするようなトーンは絶対に避けてください。ユーモアのつもりでも、受け取り手によっては非常に不快に感じられることがあります。常に丁寧で、品位のある言葉遣いを心がけてください。
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法務部門・広報部門によるチェック: 競合他社や他ブランドに言及する可能性のある投稿については、必ず法務部門や社内規定に詳しい担当者、および広報部門による複数体制でのチェックを経るようにしてください。特に法的リスク(誹謗中傷、景表法違反など)については、専門的な知見を持つ担当者の判断が不可欠です。
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業界全体の活性化などポジティブな文脈での言及: 特定の製品やサービスを比較するのではなく、「業界全体の技術発展」「ユーザーへの新たな選択肢の提供」といった、より広い視点やポジティブな文脈で他社に言及する場合があります。このような場合でも、他社の活動や製品に対する敬意を払い、中立的で客観的な事実の記述にとどめるべきです。
ポスト前チェックリスト(競合・他ブランド言及時)
競合他社や他ブランドに言及する投稿を作成した場合、ポスト前に以下の項目をチェックリストとして活用してください。
- [ ] 投稿内で競合他社や他ブランドに言及しているか?(している場合は以下の項目をチェック)
- [ ] 言及内容は客観的な事実やデータに基づいているか?
- [ ] データや比較の根拠(出典、調査機関、時期など)は明確に示せるか?
- [ ] 表現は誹謗中傷、名誉毀損にあたる可能性はないか?
- [ ] 事実に反する内容や誤解を招く不正確な情報を含んでいないか?
- [ ] 比較表示の場合、景品表示法に抵触する(優良誤認表示にあたる)可能性はないか?
- [ ] 揶揄、攻撃的、軽蔑的、嘲笑的なトーンになっていないか?
- [ ] 意図せず競合の宣伝につながる内容になっていないか?
- [ ] 自社のブランドイメージや品位を損なう表現ではないか?
- [ ] 当該投稿について、法務部門または社内規定担当者のチェックを受けているか?
- [ ] 当該投稿について、広報部門または複数担当者によるチェックを受けているか?
まとめ
企業SNSにおいて競合他社や他ブランドに言及することは、慎重な判断と表現が求められるデリケートな行為です。安易な比較や批判は、炎上リスクを高めるだけでなく、法的な問題に発展したり、長期的に企業ブランドの信頼性を損なったりする可能性があります。
最も安全なアプローチは、他社への言及を最小限にとどめ、自社独自の価値や強みをポジティブかつ具体的に伝えることに注力することです。どうしても言及が必要な場合は、常に客観性、正確性、品位を保ち、社内外の複数担当者による厳格なチェック体制を構築することが不可欠です。
本稿でご紹介したチェックリストが、企業広報・PR担当者の皆様による安全なSNS運用の一助となり、企業の健全な情報発信体制の構築に貢献できれば幸いです。