【ポスト前チェックリスト】SNS投稿における各種権利侵害リスクとチェック項目
はじめに
企業公式SNSアカウントの運用において、炎上リスクへの対策は極めて重要です。不適切な発言や配慮に欠ける表現だけでなく、意図せず他者の権利を侵害してしまうことも、企業の信頼を大きく損なう原因となります。特に、著作権、商標権、肖像権といった各種の権利侵害は、法的な問題に発展する可能性も伴います。
本記事では、企業SNS担当者の皆様が安全な投稿を行うために、SNS投稿に潜む代表的な権利侵害リスクを整理し、それぞれの対策と投稿前に確認すべきチェック項目を具体的に解説いたします。この記事を通じて、権利侵害リスクを未然に防ぎ、安心して情報発信を行える体制構築の一助となれば幸いです。
企業SNS投稿における主な権利侵害リスク
SNS投稿で問題となりやすい権利侵害には、いくつかの種類があります。それぞれの概要と、SNS投稿との関連性についてご説明します。
1. 著作権侵害
著作権は、文芸、学術、美術、音楽などの思想または感情を創作的に表現した「著作物」に対して与えられる権利です。SNS投稿においては、以下のようなケースで著作権侵害のリスクが生じます。
- 画像・写真・イラストの無断利用: インターネット上で見つけた画像、他社・他者の撮影した写真、イラストなどを許諾なく使用する。
- 音楽・BGMの無断利用: 動画投稿やライブ配信において、市販されている楽曲や、使用許諾を得ていないフリー音源などをBGMとして使用する。
- 動画の無断利用: 他のユーザーや企業が作成した動画の一部または全部を、許諾なく自身の投稿に含める。
- テキストの無断転載: 書籍、ウェブサイトの記事、ブログなどの文章を、引用のルールを守らずにそのまま転載する。
- デザインの模倣: 他者のデザイン(ウェブサイト、広告、グッズなど)を無断で模倣して使用する。
著作権は、原則として著作物を作成した時点で自動的に発生するため、著作権表示がない場合でも保護されています。
2. 商標権侵害
商標権は、商品やサービスに使用するネーミングやロゴ、マークなどの「商標」を保護する権利です。登録された商標と同一または類似の商標を、指定商品・サービスと同一または類似の商品・サービスに対して使用する行為は、商標権侵害となります。
SNS投稿においては、以下のようなケースが考えられます。
- 他社の商品名・サービス名を無断で自社の商品・サービスと関連付けて使用する: 例として、自社製品を紹介する際に、競合他社の登録商標を許可なく使用し、誤認させる可能性がある表現を用いるなど。
- 他社の登録ロゴマークを無断で使用する: 関係性のない投稿に他社のロゴマークを使用するなど。
- 自社の商品・サービスに、他社が登録している商標と紛らわしい名称やロゴを使用し、それをSNSで発信する。
商標権は特許庁への登録によって発生する権利です。
3. 肖像権・パブリシティ権侵害
肖像権は、人が自身の肖像(顔や姿)を無断で撮影されたり、公表されたりしないように主張できる権利です。パブリシティ権は、有名人の肖像などが持つ顧客吸引力(経済的価値)を無断で利用されない権利です。
SNS投稿においては、以下のようなケースがリスクとなります。
- 個人の顔や姿が明確に写っている写真を、本人の許諾なく投稿する。 特に、イベント参加者、従業員、社外の人物など。
- 有名人やインフルエンサーなどの肖像や氏名を、商品・サービスの宣伝に許諾なく利用する。
プライバシー権も関連しますが、こちらはより広範に私生活に関する情報を保護する権利です。氏名、住所、電話番号などの個人情報を本人の同意なく公開する行為は、プライバシー侵害にあたります。
4. その他の権利侵害
- 意匠権侵害: 製品のデザインなど、物品の形状や模様、色彩などの意匠を保護する権利です。他社の登録意匠と同一または類似の意匠を無断で使用・販売する行為は意匠権侵害となります。SNSで模倣品を宣伝・販売するようなケースが考えられます。
- 不正競争防止法違反: 他社の著名な商品表示(商品名、パッケージ、広告宣伝など)に類似したものを使用し、混同を生じさせる行為や、営業秘密を不正に取得・使用する行為などを禁じる法律です。SNSでの情報発信が不正競争行為につながる可能性もゼロではありません。
権利侵害を避けるためのチェックリスト
これらの権利侵害リスクを回避するために、SNS投稿前に必ず確認すべき項目を整理します。
1. コンテンツのオリジナル性・利用権の確認
- [ ] 投稿に使用する全てのコンテンツ(テキスト、画像、動画、音声、デザインなど)は自社で制作したオリジナルであるか、または正規の許諾を得ているか確認しましたか。
- フリー素材サイトや有料ストックフォトサイトの素材を使用する場合、利用規約を遵守しているか、商用利用が可能か、クレジット表記は必要かなどを確認しましたか。
- 生成AIによって生成されたコンテンツを使用する場合、利用規約を確認し、商用利用が可能か、著作権帰属やトラブル時の責任範囲について理解していますか。
- [ ] 他社・他者の制作したコンテンツを引用・参照する場合、著作権法上の「引用」の要件(公正な慣行に合致しており、報道、批評、研究その他の目的上正当な範囲内であること、質的量の主従関係、出典の明記など)を満たしていますか。
- [ ] 従業員や協力会社が制作したコンテンツを使用する場合、契約等により企業がSNSでの利用権限を有しているか確認しましたか。
2. 画像・動画内の写り込み、人物に関する確認
- [ ] 投稿する画像や動画に、意図しない形で第三者の顔や姿がはっきりと写り込んでいませんか。
- 写り込んでいる場合、本人(特に個人が特定できる場合)の許諾を得ていますか。イベント会場など不特定多数が写り込む場合は、事前に撮影・公開の可能性があることを告知するなど、適切な対応を講じましたか。
- [ ] 従業員や関係者の顔写真を投稿する場合、本人の同意を得ていますか。 特に、広報目的での利用であることや、どのような媒体(SNS)で公開されるかを具体的に伝えていますか。
- [ ] 有名人の写真やイラスト、氏名を投稿に使用する場合、本人または所属事務所等の許諾を得ていますか。 パブリシティ権侵害のリスクがあります。
- [ ] 他社の建物、看板、商品パッケージなどが主要な被写体として映り込んでおり、それが他社の商標権や意匠権、著作権に関わる場合、問題ないか確認しましたか。
3. 商標・ブランドに関する確認
- [ ] 投稿内で他社の登録商標(商品名、サービス名、ロゴなど)を使用する場合、誤った情報を伝えたり、他社のブランドイメージを損なったりする表現になっていませんか。
- あくまで自社製品・サービスとの比較説明などで使用する場合は、比較広告に関するガイドライン等も考慮し、正確かつ公正な表現に留めていますか。
- [ ] 自社製品・サービス名やロゴが、他社の登録商標と同一または類似していませんか。 特に、新規に名称やロゴを決定しSNSで公表する際は、事前の商標調査が重要です。
- [ ] 投稿に使用する画像や動画に、他社のロゴマークやブランド名が意図せず大きく映り込んでいませんか。
4. その他法的リスク・プライバシーに関する確認
- [ ] 投稿内容に個人情報(氏名、住所、電話番号、メールアドレス、生年月日など特定の個人を識別できる情報)を含んでいませんか。 含んでいる場合、本人の明確な同意を得ていますか。
- [ ] 投稿内容が、特定の個人や団体、思想などを誹謗中傷したり、名誉を毀損したりする内容になっていませんか。
- [ ] 投稿内容が、景品表示法、薬機法、特定商取引法などの各種法令に抵触する表現を含んでいませんか。 (例:根拠のない最大級の表現、虚偽・誇大な広告、医薬品的な効能効果を示唆する表現など)
- [ ] 従業員や関係者のプライベートに関する情報を、本人の同意なく投稿していませんか。
権利侵害が発生した場合の対応
万が一、権利侵害の指摘を受けたり、発覚したりした場合は、迅速かつ誠実な対応が求められます。
- 事実確認と原因特定: どのような権利を、どのように侵害した可能性があるのか、事実関係を正確に把握します。投稿内容、使用素材の入手経路、承認プロセスなどを確認します。
- 投稿の削除または修正: 侵害している可能性のある投稿は、被害の拡大を防ぐため、速やかに削除または修正します。安易な修正がかえって問題を大きくすることもあるため、法務部門等と連携し慎重に進めます。
- 権利者への対応: 権利者からの指摘があった場合は、誠実に対応します。事実を認め謝罪が必要な場合は真摯に行い、今後の対応について協議します。専門家(弁護士)に相談することも検討します。
- 再発防止策の策定: 今回の事態を招いた原因を分析し、社内での情報共有、チェック体制の見直し、担当者への教育などを実施し、同様の問題が再発しないよう対策を講じます。
まとめ
企業SNS運用における権利侵害リスクは多岐にわたりますが、投稿前に体系的なチェックを行うことで、その多くは回避可能です。ご紹介したチェック項目は基本的なものですが、これを基に自社の運用体制や扱うコンテンツの種類に応じた、より詳細なチェックリストを作成・運用することをお勧めします。
また、SNSのトレンドやプラットフォームの仕様、関連法規は常に変化します。最新の情報にアンテナを張り、運用チーム全体で権利意識を高め、継続的に学習していく姿勢が、安全な企業SNS運用には不可欠です。リスク管理を徹底し、SNSをブランドイメージ向上と顧客コミュニケーション強化のための有効なツールとして活用してください。